現実と物語をシームレスに繋ぐ。P.I.C.S. TECHの手掛ける体験設計とは?(前編)

#Interview #P.I.C.S. TECH

「Creative」×「Space」×「Technology」をキーワードに、美術館、テーマパーク、パブリックスペースなど様々なシチュエーションで、映像を拡張した空間体験を生み出しているP.I.C.S. TECH。様々なバックボーンを持つメンバーで構成されている同チームから、テクニカルディレクションを担当する上野陸と、主にアートディレクションを担当する尾澤弥生にフォーカス。P.I.C.S. TECHが提供する体験設計とは?二人がどのように新しい体験を生み出しているかを前後編で紐解きます。前編では今まで手がけた作品を軸にどのように体験設計を考え空間を作っているのかに迫ります。
P.I.C.S. TECH:https://www.pics.tokyo/tech/


上野陸:プログラマー・テクニカルディレクター
1992年生まれ、多摩美術大学情報デザイン学科卒業後P.I.C.S.に入社。
デザイン的思考とプログラミングを用いて新たな体感する映像を目指して、インタラクティブインスタレーション等の制作、テクニカルディレクションを担当。
https://www.pics.tokyo/member/riku-ueno/

尾澤弥生:プランナー・アートディレクター
武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。在学中はセノグラフィーを専攻。
映像・空間を融合させた、体験設計/プランニング/アートディレクションを担当。
https://www.pics.tokyo/member/yayoi-ozawa/

========================================

体験設計と技術でより良い空間作りを

―― P.I.C.S. TECHチームでのそれぞれの役割と関わり方についてお聞かせください。

尾澤:P.I.C.S. TECHでは、”体験者が空間に入った瞬間からどんな気持ちになってもらい、どこに気持ちの頂点を持っていき、どう終わっていくか”を設計することを「体験設計」と名付けています。
私は、プランナー/アートディレクターの2つの肩書を持っていますが、前者はその体験設計部分を担当する仕事だと考えており、展示の中でどんな物語を作っていくか、体験者にどんな気持ちになってもらうかを最初に考えます。それに紐づいて、体験者にそのような気持ちになってもらうために展示物をどう構成するのが良いのか、空間全体の照明や音響、美術などトータルでディレクションするという意味で、アートディレクターの仕事も行っています。

最近ではシナリオに携わることもあります。例えば資生堂福岡久留米工場にある見学施設 「SHISEIDO BEAUTY PLANET」(https://www.pics.tokyo/works/shiseido_beauty-planet/)の映像制作を行った際に、初めてシナリオに携わりました。 コンセプトが「美の循環」だったので、その世界観を覗き見る1つの物語を作ってクライアントに提案し、映像を作っていきました。それ以来、まずシナリオを作って作品のストーリーを組み立ててから、空間の体験設計を考えています。

資生堂 福岡久留米工場「SHISEIDO BEAUTY PLANET 」

上野:P.I.C.S. TECHの仕事は、体験者が”どういう状態の空間で視聴するのか”をちゃんと整えるのが重要だと考えています。その中でも自分は、より技術的な役割を担っており、作品を様々な方法でブラッシュアップすることに楽しさや魅力を感じています。例えば、空間や場所を暗くする・音や音質を良くする…など、映像制作以外の部分でこんな技術があればこんな体験ができるよ、と提案したり。
尾澤さんが空間に対して「コンセプト」を考えて一つの体験に落とし込んでいき、僕はそのものの説得力や没入感を深めるために技術の提案をする。お互いの得意とする部分を引き出しながら、それぞれの知識を活かして、より良い空間作りを目指しています。


尾澤:上野さんは私のやりたい世界観を汲み取るのが上手なんですよ。映像は一瞬で終わるけど、空間は永遠に見られてしまうので粗が見つかりやすいんです。なので、細部に対するこだわりや、ディティールをわかってくれるクリエイターと一緒に仕事がしたい。その繊細なニュアンスを汲み取ってくれるのが上手なのが上野さんなんです。

一期一会の「OMAKASE」を提供するために

――お二人がご一緒したプロジェクトで印象的なものについて教えてください。

尾澤:2023年5月に開催された、NFTアート体験型ギャラリー「Bright Moments Tokyo」では、二人の連携がとてもスムーズにとれて、各々の役割がしっかり果たせた案件でした。


Bright Moments Tokyo:https://www.pics.tokyo/works/bright-moments-tokyo/
※全世界を巡回するNFTアート体験型ギャラリー「Bright Moments Tokyo」は2023年5月に渋谷パルコDGビル18階カンファレンスホール「Dragon Gate」を中心に開催された。Bright Momentsとは世界中でデジタルアートとNFT作品のIRL Minting(IRL=In Real Life, 現実世界での収集体験)ができるギャラリーを創り出し、NFTの可能性を拡大するコミュニティー。P.I.C.S. TECHは、日本で初めて開催されるNFTアート体験型ギャラリー「Bright Moments Tokyo」会場の体験設計・アートディレクション・空間演出・施工を担当しました。

NFTアート体験型ギャラリー「Bright Moments Tokyo」

尾澤:Bright Moments Tokyo の展示のコンセプトは「OMAKASE(おまかせ)」。Bright Momentsが設定した「OMAKASE」とは、一期一会の体験であり、お客様にカスタマイズされた体験を提供することでした。私たちは、どのような空間でどのような体験を持ち帰ってもらうことが「OMAKASE」なんだろう?と議論し、意見を交わしながら体験設計を進めていきました。
P.I.C.S. TECHの考える「OMAKASE」を表現するため、夜間での開催ということもあり空間は「光と影」で構成する事にしました。私は「光と影」の間にある曖昧な部分や日本人らしい感覚を大切に表現したいと思ったので、その空間に説得力を持たせるために照明のコントロールは上野さんにお願いしました。


上野:例えば、人の動きで光が反応する、街の光のデータの変化率を照明に反映する…など。光を巧みに扱ってインタラクティブに演出する案を提案しました。エントランスからホワイエに入る空間では、照明を人の動きに連動させ、入ってきた人の歩くスピードの変化率で出現する照明の色を変えていました。それは、コンセプトでもある”お客様にカスタマイズされた体験”=「OMAKASE」だなと。


尾澤:5月の開催だったので、ホワイエに足を踏み入れた瞬間に日本 / 東京の「春」を感じてもらえたらと思い、「OMAKASE」で、日本の春の色が移り変わる演出がしたいと考えました。他にも、会場奥には日本人アーティストのNFT作品を見ていただく空間があったのですが、この部分にも日本の春の色を忍ばせています。あくまでも主役はBright Moments のNFTアート作品なので、作品を目立たせながらも照明パネルを使って演出したいと上野さんに相談したところ、そのエリアが東京の夜景に面しているということもあり「東京の夜景の光の変化に合わせて、照明パネルの色を変化させる」というアイデアを提案してくれました。こちらは”一期一会の体験”という意味で「OMAKASE」を表現できたのではないかと思っています。


上野:東京の夜景の光を抽出する事で、東京のビルの光が影響してパネルの色が微妙に変化していくのですが、場に馴染むように作っていたので繊細な変化はほとんどの人が気付いていなかったかもしれません。気付かれなくても「良い空間だったな。」と感じてもらえるのを目指しました。

「Bright Moments Tokyo」FOYER エリア

「Bright Moments Tokyo」JAPANESE CONTEMPORARY COLLECTION エリア

――そのアイデアはどうやって生まれるのですか?

上野:自分の中での命題として"現実とデジタルをシームレスにつなぐ"というのがあるので、一番没入感を高められる実現方法を選択肢の中から提案した感じです。尾澤さんが作ったコンセプトから1つの時間軸に落とし込んで、僕はその説得力をあげるために深掘りしていくイメージ。


尾澤:上野さんにお願いしたらきっと面白い提案が出てくるだろうな、って絶対的な信頼がありました。


上野:尾澤さんも「一言で言えるようなコンセプト」を作ってくれるのでとてもわかりやすく、提案しやすいんです。僕はいつも自由な発想で提案させてもらっています。


尾澤:私が体験設計を行う時に一番大事にしている事は、自分の中で「揺るがぬ軸を決める」事です。経験値でしかないですが、自分の中で120%良いと思ったものは周囲の人も良いと思ってもらえる事が多く、逆に自分でも自信のないものや中途半端なものをもっていくと、必ずツッコミが入るんです。絶対的な軸を1つだけ、時間をかけて作って持っていく。Bright Momentsで二人がうまく連携できたのも、お互い信頼して任せられたのもありますし、同じ方向(ゴール)を向いていたからだと思います。相乗効果で作品の説得力もより上がっていったように思います。

============
インタビュー後編:
https://www.pics.tokyo/casestudy/pics_tech_interview02/


Credit
  • Photo :加藤 卓
  • Text :P.I.C.S.